其の壱

 一条明・中学三年生。
生真面目だが性格は至って明るくユーモラス。時としてズッコケる事あり(要するにオッチョコチョイ)。理数系が得意で機械いじりが好き。スポーツ万能で正義感強し。いつも不良をコテンパンに取っちめているが、そのお陰でよく先生に叱られている。彼は、本当に極普通の少年であった。彼女との出会いがあるまでは…。





 ある日、一条が下校していると、一人の若い女性がゴロツキ風の男に絡まれていた。正義感の強い我らが一条、すかさず女性を助けに行った。
「やめろ!!その人を帰してやれ!!」
「なんだテメエは!?邪魔するな!!」

 殴りかかって来た男の拳を素早く避け、一条は必殺のアッパーを見舞った。
「がちょーーーーーん☆☆☆!!!」
 男はだらしなくも退散して行った。
「ははははは…!!オレに掛かればチョロいもんだ」
「あの…あなたは?」
「ああ、名乗る程の者ではありませんが、町内のアカ★ンジャーとはオレの事です♪」
 訳のわからない自己紹介をしながら、一条は女性を観察した(と言っても別にスケベ根性からでは無い)。年齢22〜3歳、清楚で知的な感じのOL風の美女である。



「私、桃園ミキと申します。先程は助けて頂いて、どうもありがとうございました。何かお礼をしないと…」
「いやいや、お礼なんてとんでもない!それより…あなたの憧れはどんなタイプの人ですか?」
「は?」
「例えば…強くて…頼もしくて…」
「ああ、それなら私の憧れの人はスーパーヒロインですわ」
「ええっっ!?」
「ホレボレしますわ、ああいう女性は…モモレ★ジャーとか、ゴーグルピ☆クとか」
がーーーーーーーん!!!


「鳴呼…何てこったい!!(オリーブ!)寄りによって、初めて愛した女性の好みが女性だったとは!!」
 一条明、思春期の少年らしく忘れきれぬ恋に一人悩み、悶えておった。
「このまま、あの人の事はあきらめるしか無いのか…?いや、待てよ!ミキさんがそれを好むと言うのなら、こっちがそれに合わせれば良いんだ」
 一条、ある一つの決心を固めた表情で立ち上がった。
「スーパーヒロインになろう!!オレの素晴らしいスーパーヒロイン振りを見れば、ミキさんもオレに傾くに違いない…!!
オレはスーパーヒロインになるぞーーーーーっっ!!!」
 彼の目は希望に輝いていた…。



其の弐 

 翌日、一条明は早速スーパーヒロイン養成学校(この世界には何故かこういう施設がある)に向かった。一条は受付に願書を提出したが、その場で突っ返された。
「キミ、ここはスーパーヒロインの養成学校だよ。行くならスーパーヒーローの養成学校に行きたまえ」
「いいえ!!ボクはどうしてもスーパーヒロインにならねばならんのです!!」
「しかし男のスーパーヒロインなんか聞いた事も無い」
 一条明、この受付の一方的な言い草にムカァ〜ッと怒りを覚えた。
「聞いた事が無ければ入学を許可しないんですか!?そんな事じゃあ、今後のスーパーヒロイン界の進歩はあり得ない!!」
「何と言われても、許可できないものはできない!!」
「この解からず屋のトーヘンボク!!」
「なっ、何っ!?もう一度言ってみろ!!」
「ああ、何度でも言ってやる!!アンタなんか、シメサバだ!!ゴジラの開きだ!!アンギラスの三枚おろしだ!!」
「帰れ〜〜〜〜っっ!!!」
 一条は、その養成学校から叩き出された。
「くっそぉ〜〜〜〜〜〜っっ!!ここであきらめてたまるか!!」
 不屈の闘志の男、一条明は片っ端から別の養成学校を当たったが、どの学校からもことごとく突っ返された。


 どんなに断わられても、一条は願書を郵送で養成学校に送り続けた。そうする一方、一条は女としての知識を得る為「独占!女の50分」「スタジオ2時半」「ママと遊ぼう!ピンパンポン」を欠かさず視聴した。
 そうしているうちに、一条の熱意に負けたのか、それとも単なる面白半分か、ある一つの養成学校から入学を許可するとの通知が来た。
「いやほぉ〜〜〜〜〜〜っっ♪♪♪!!!」
 一条は喜びのあまり、自室の窓から飛び出した。しかし、彼は大切な事を忘れていた。自分の部屋が二階にあるという事を…。



其の参

 その翌日から、一条は養成学校に通う事になった(勿論、昼間は学校があるので、通うのは夜間のみである)。一条は担当の教諭に教室まで案内された。
「あのう…入学に関しての事なんですけど、筆記試験や実技試験とかは無いんですか?」
「ええ、本校では能力より徳性を重んじておりますので」
 ここの校長は、なんて人を見る目があるんだろう。すでに入学する前から、オレの徳性は認められていたんだ…。
 一条は内心、感激に打ち震えていたが、それはちょっと違うと思われる。多分、校長が一条の入学を許可したのは、こういう変わり者は人畜無害と判断したのであろう。

 担当官は一条と共に教室に入ったが、何か忘れ物をしたらしく、一条を残して教室を出て行った。教室内の生徒達は当然女子ばかり。中には何と!一条のクラスメートの南夕子の姿があった。



 夕子は怪訝そうに一条を見つめていたが、他の生徒達は突然飛び込んで来た異性に対して好奇の目で近寄って来た。
「あなた、何する人?学級新聞の取材の方?」
「それとも、スーパーヒロインの研究に来たの?」
「みんな見せちゃう!私のすべてをどーーーーぞ♪」
(ぞぞぉ〜〜〜〜っ)あ、いや、そういうのじゃなくて、オレはキミ達と一緒に勉強する為に来たんだ」
「……」
「だから、つまり…オレはスーパーヒロインになる為に、この養成学校に入学したんだ」
「……!!」

 あまりの常識ハズレの一条の一言に、生徒達は皆言葉を失い、ジト目で一条を見ながら彼から遠のいた。
「…良いんだ、こうなる事は覚悟の上だったんだから…。でも、まさか南がここに通ってたなんて…。あいつは普段から腕っ節強かったが、こりゃあここだけでなく学校でも大変な事になりそうだぜ…」

其の四

 不安はあるもの一条明、元々頭は悪くないので授業の方はスイスイ覚え(理数系に強いのが役立っていた)、運動神経も良いので実技の方も優れていた。
 それでも、他の生徒達がスーパーヒロインを目指すような男を認めるはずも無く、下校時などは暗がりから一条に闇討ちをし掛けた。次々に飛んで来る手裏剣やレーザー、爆弾を避ける毎日であったが、一条はこれも訓練のうちと苦痛ながらも受け入れていた。





 災難は養成学校だけに止まらず、一条の通う中学校でも起こった。当然、南夕子がしゃべったのであろう、クラス中は一条の噂で持ちきりであった。一条が教室に入るなり、男子生徒達が彼を冷やかした。
「一条、お前女になる勉強してんだって!?」
「どこのオカマクラブのホステスになるんだよ!?」
「イヤーン、バカーン!!」
「一条のお姉様、どうせ女になるんだったら、いっその事男の証もチョン切っちゃったら?」
「わははははははは…」
 こん畜生ぉ〜〜〜っ…!!一条は拳を握り締め、全身を震わせながら屈辱に耐えた。
(耐えるんだ、明!これもすべてミキさんのハートを射止める為だ……!!)
 一条は、常におのれにそう言い聞かせた。彼こそ真の男である。見習おう!!


 そんなある日、一条は中学からの下校途中、他校の番長グループと出くわした。
「やい、一条!!この前はよくもオレに恥をかかせてくれたな!!たっぷり礼をさせて貰うから覚悟しろ!!」
 一条、ここは養成学校で習い覚えた腕の見せ所とばかりに、戦闘態勢に入った…のは良いのだが、その時番長及びその手下どもが思わず我が耳を疑うような言葉が、一条の口から放たれた。
「番長さん、性懲りも無くまた私と戦おうっていうの!?」
「ゲッ!!何だ!?」
「さあ、掛かっていらっしゃい!!相手になるわ!!」
「気持ち悪ぅ〜〜〜〜〜っっ☆★!!!!」

 あまりのおぞましさに、番長グループは慌てて退散した。さすがである。
「ふっ、逃げたか、口ほどにも無い…って、いかん!!私はスーパーヒロインなのよ。おほほほほほ…」

其の伍

 数々の苦難にもめげず、自分の信念を貫く一条明、まさに男の鑑である。そうしているうちに、とうとう養成学校卒業の日が来た。卒業証書とスーパーヒロインのスーツ一式を手にして、一条は誇らしげに養成学校を後にした(周囲はかなりジト目で見送っていたであろうが…)。
 自宅に帰ると、早速一条は箱を開けてスーツを見た。ピンク一色のヘルメット、マント、手袋、ブーツ、オマケに胴体部分の方はミニスカートのワンピース!!
「まいったなあ…。こりゃ、下着の方も何とかしないと…」
 そこで一条は、デパートでどう誤魔化したか女性物のランジェリー、ブラやパンティ、生理用ショーツまで購入した(当然、店員はジト目であったであろう…)。
 一条はブラとパンティを付け、腰を母のガードルで締め上げ、ブラの中にパットを詰め、顔に化粧してスーパーヒロインのスーツを試着した。少々、ゴツくて色が浅黒いが、その分精悍な女戦士に見える。
「完璧だ!!これでオレも立派なスーパーヒロインだ!!」 
 鏡を見ながら一条が一人で満足していると、突如外で悲鳴が上がった。
「助けてーーーーっ!!」
「んんーーっ!!あの声はミキさん!!良くゴロツキに襲われる人だ…なんて言ってる場合じゃ無い!!今こそ彼女にオレの晴れ姿をご披露する時!!たーーーっ!!」
 スーパーヒロインとなった一条は、今度はズッコケる事無く二階の自室の窓から飛び降りた!さすがスーパーヒロイン、カッコ良い!!(その時、恐ろしい事にスカートが翻りパンチラになったが…)。

 ヒロイン一条が駆けつけると、そこにはあの桃園ミキが数人のゴロツキに囲まれていた。
「その人から離れなさい!!」
「な、何だ!?このゴツイ女は!?」
「名を名乗れ!!」

 そうだよ、名前を考えなくっちゃ…。一条は頭を捻った。
「…そうそう!愛の戦士・ピンクレディーとでも呼んで頂戴!!」
「何がピンクレディーだ!!気持ちの悪い!!構わん!!こいつも押え付けてスッパダカに剥いてやれ!!」
「おうっ!!あまり気が進まんが…」



 ゴロツキ軍団が襲い掛かって来た。一条、いやピンクレディーは、その華麗なる動きで次々とゴロツキどもを打ち倒していった。その強い事、強い事…(まあ、元が男な上にケンカが強いんだから当たり前だけど…)。
「ひっ、引き上げろぉ〜〜〜〜っっ☆★!!」
「近頃の女はコワイ!!」

 ゴロツキどもは、屁っぴり腰で逃げ去った。ピンクレディー強し!!ヒロイン一条の初の戦いは、一条の圧倒的勝利となった。
「ステキー!!」
 桃園ミキが感激の声を上げて、一条の元に駆け寄って来た。
「危ないところをどうもありがとうございました。私、あなたのような強くてカッコ良い女性に憧れてるんです…あら、あなたは…」
「ミキさん、またお会いしましたね。ボク、あの時あなたを助けた一条明です。お望み通り、あなたの憧れのスーパーヒロインになりました。どうぞ、ボクと付き合って下さい♪」
「ちょ、ちょっと待って下さい。私はスーパーヒロインに憧れているとは言いましたが、別に恋人にしたいというつもりで言った訳ではありませんわ」
ガーーーーーーーン!!!
 何てこったい!!(オリーブ!)まったく日本語は難しい!!
「あ…あの、私ちょっと用事がありますので失礼します…」
 ミキはヒロイン姿の一条をジト目で見ながら、逃げるようにその場を立ち去った。
「えっ!?あの、ちょっと、ミキさーーーーん!!!」
 一条の声が虚しくこだました…。

其の六

 哀れ、我らがヒロイン一条は失意に打ちひしがれて家路をたどった。ひどい落ち込みのあまり、通りすがりのオッサンが怪し気な目で見ているのにも、傍で子供達が指さして笑っているのにも、上空でシラケ鳥が飛んでいるのにも気付かなかった。

 一条が家の玄関に入ると、見知らぬ男物の靴があった。どうも来客がいるらしい…と思いきや、いきなりコメディアン風の中年男性が居間から飛び出して来た。
「あらーっ!!このオカマ坊ちゃんが明くんですか!?ホントにお父様のおっしゃる通りのイカレたキャラクターですねえ!!」
 この野郎、初対面の相手に対してオカマだのイカレたのとはどういう言い草だ…!一条が男に詰め寄ろうとすると、続いて居間から一条の父親が顔を覗かせた。
 一条の父親は機械の修理工場を経営しているのだが、今日は珍しく早く帰宅していた。何やら意味あり気な照れ笑い、いや苦笑いを浮かべている。
「明、ちょっと話があるんだが…」
「なんだ親父、帰ってたのか。一体何なんだよ、このド失礼の権化の如きオッサンは!?」
「明、その事なんだが実は今日ワシの工場が火事で全焼して莫大な損害を出してな…借金して賠償金は払ったんだが、その借金を返済する為に、つまり、その、お前の力が借りたくて…」
「…要するに、このオッサンはコメディアンのスカウトで、親父はオレにコメディアンになれと…?」
「あったりーーーーー♪♪♪!!」
「冗談じゃねえ!!それじゃあオレは借金のカタにヤクザに身売りさせられるようなもんだろーが!!何の断りも無しに勝手に決めるな!!」
「明、頼む!!何事もワシを救う為だと思って、お前のその特異な才能を活かしてくれ!!」
「アンタそれでも父親かぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

終局

 数日後、男のヒロイン・桃井あきら嬢は芸能界に華々しくデビューした。
「あっはーん、うっふーん、ちょっとだけよー♪」
「だははははははははははははは!!」

 バカ受けであった。どこからどう見ても男の風貌の、それも二枚目の兄ちゃんが大真面目に女を演じるバカ丸出しの演技が全国の笑いを誘い、早くもあきら嬢はお笑いの大スターとなった。もう父親の借金返済どころの儲けでは無い、この芸が受け続ければ一生食べていくのに困らないであろう。やったね!我らが一条明!!

 教訓:何事にも一途に直向きに打ち込めば、その努力は必ず報われる。見習おうぜ!


「そういう問題じゃなかろーが!!ちっくしょおぉ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!誰かオレを普通の男に戻してくれぇ〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
 (完)



一条明の解説
 中学3年生。一途な熱血漢で正義感強し。スポーツ万能。父親が機械の修理工場を営んでいるので機械に強い。得意な教科は理数系で、学業成績も上の方だと思われるが、やる事がトンチンカンなのがタマに傷。この性格さえ何とかなれば女の子にモテるであろうに、惜しい男である(笑)。ネーミングは、マクロスの一条輝から(設定当時の読みは「ひかる」ではなく「あきら」でした)。
 ちなみに本編の二人のヒロイン(こちらは本物)、桃園ミキ、南夕子、一条の芸名・桃井あきらのネーミングは、特撮物のヒロインの名前から取りました。