五月ルイが満足気にケムマキケムゾウ・ケムシ兄弟、芥川童馬、国生明菜に話し掛けた。
その日、市民会館でアニメ映画の上映会が催された。悪魔に呪いを掛けられた姫君を勇敢な王子が救い出すといった内容で、今はその映画を見終わった後の帰り道を歩いているところである。
「私も一度で良いから、中世のお城でお姫様のような生活がしてみたいわ」
「言うなあ･･･世の中そう簡単にシンデレラになれたら苦労は無いぜ」
「でも、いつの時代でも女の子の憧れよ。美しいお城の中で、素敵なドレスで着飾って･･･」
『で、王子様が現れるのを待つ訳･･･？』
と、うっとり夢見がちなルイを見ながら男４人は同時に思った。
――と、その時。そんな彼らを面白そうに見つめている一つの影があった。
「へっへっへ･･･♪」
「あら、あなた誰？」
「え？ルイ姉ちゃん、誰に話してるの？」
いきなりのルイの言葉にケムシは面食らって辺りを見回した。他の３人も同様に見回したが、辺りにはケムゾウ達５人以外は誰もいなかった。
「みんなには見えないのね。という事は･･･あなた妖精？」
この五月ルイ、どういう訳か生まれつき霊的存在を見通す力を持っている。一同が何も無い空間に向かってルイが話し掛けているのを不思議そうに見ていると、その何も無いところから唐突に誰かの声が聞こえた。
「こりゃ驚いた。姿を消していても、アンタにはオレがいるのが分るんだね？」
その声のした空間から、神話風の衣装を着た長い黒髪の少年が現れた。青い肌に大きな尖った耳、背中に生えた昆虫のような羽から見て彼が人類外の存在である事は確かだが、更に驚くべき点は――
「おっ、おい！！何モンだ、お前！！オレにそっくりじゃないか！？」
ケムゾウが彼を見てびっくりした声を出した。皆も２人を見比べ信じられないといった顔をしている。
そう、その不思議な少年は顔立ちや背丈がケムゾウと瓜二つだった。
「ひょっとして、お前か？この前、惚れ薬を振り撒いてオレ達にイタズラしたのは！」
童馬が以前、自分達の身の回りで起きた事件を思い出し、少年に尋ねた。
「そうさ。オレ、妖精のケムケム。あの時の事は悪気は無かったんだ、どうか忘れておくれ♪」
「忘れてくれって、てめえ･･･(汗)」
怒りに震える童馬を尻目に、妖精ケムケムはルイに話し掛けてきた。
「ところでお嬢さん、アンタさっき昔のお姫様みたいな生活がしてみたいって言ってたよね？」
「ええ、できる事なら」
「その願い、かなえてやるぜ」
「え？本当！？」
言うが早いか、ケムケムが１本指を立てた途端、ルイの周りの空間が渦を巻き彼女を飲み込んだ。
「きゃああああーーーーっっ！！」
「ルイちゃーーーーん！！」
ケムゾウは空間の渦の中からルイを救い出そうとしたが、それより早く空間は閉じられ、すでにルイの姿はどこにも無かった。
「やい、妖怪！！ルイちゃんをどこにやった！？」
「オレは妖精だ･･･(汗)。あの子なら望み通り、昔のお姫様の時代に飛ばしてやったぜ。そこで首尾良く王家のお方に拾われれば、あの子もお姫様になれるって訳だ」
「なな何だって！？」
あまりのとんでも無い妖精の所業に一同は驚き呆れ、そして大いに怒った。
「なんちゅう事をするんだ！このドアホ！！」
「何でだよ？オレはあの子の願いを叶えたんだぞ？」
非難するケムシに、ケムケムは咎め立てされる筋合いは無いといった顔をした。
「ルイちゃんはただ言ってみただけだよ！彼女には家族がいるんだぞ！早くこの世界に連れ戻せ！！」
我を忘れていきり立つケムゾウに、ケムケムは決まり悪そうに苦笑いしながら一言･･･
「へへへ･･･どこに飛ばしたか分らなくなった･･･(汗)」
「ええーーーーっっ！？」
※ ※ ※ ※
時代は中世――ここは当時のフランスの中の、ある１つの王国。
その日、その国の王女であるローズ・ダイヤ姫は家来と共に森に遊びに来ていた。
「まあ、素敵！きれいな花がたくさん咲いてますわ！」
ダイヤ姫は馬から降りると、野原を楽しそうに走り回った。
「姫様。あまり遠くへ行ってはいけませんよ」
「はーい♪」
ダイヤ姫は野原で楽しそうに花を摘んでいたが、ふと森の中を見ると木々の陰に人が倒れているのが見えた。この辺りでは見掛けない変わった服装をした少女であった。ダイヤ姫は家来をその場に連れて来た。
「はて･･･どこの国の娘でしょう･･･？」
「行き倒れの人を放って置けませんわ。この人をお城へ連れて行きましょう」
「でも、どこの誰とも分らぬ者を･･･」
「この人は悪い人ではありませんわ。私には分ります。見たところ年頃も私と同じぐらいですし、きっと何か訳があってこの国に来たんですわ」
ダイヤ姫の切実な言葉に促された家来は、少女を抱き上げダイヤ姫と共に馬上に乗せた。
その少女こそ、過去に飛ばされた五月ルイ。
一体この先、彼女にどのような運命が待ち受けているのやら･･･。
「やい、妖怪！！頼みもしないのに、とんでも無い事してくれやがって！！一体ルイちゃんの事どうしてくれるんだ！？」
あまりの事態に皆はすっかり動揺していた。ケムゾウに至っては、殆どパニック状態である。
「ちょっと待て。今、あの子を飛ばした時代と場所を思い出すから･･･(どうでも良いけど、オレは妖精だ･･･：汗)」
ケムケムはしばらく腕組みして考えていたが、どうやら見当が付いたらしく、皆に向かって口を開いた。
「大体は思い出した。今からその時代に彼女を連れ戻しに行って来る」
「連れ戻しに行くって、お前の力で呼び戻せるんじゃ無いのか？」
「そこまでの魔法は、まだ修行して無いよ。今のオレの力では、飛ばしたものは自分で取りに行かなきゃならん」
「頼りねえなあ･･･(汗)。よし、それならオレ達も連れて行け！」
「何だって？」
「お前はどうも信用ならねえ。ルイちゃんを探し出さずにトンズラする可能性大有りだからな。
オレ達もその場に行って、直接彼女の無事な姿を見た方が安心だ。そうだな？みんな」
「そうとも！」
「賛成！」
「異議無し！」
ケムゾウの言葉に、他の３人も同意した。
「やれやれ･･･じゃあ、連れて行ってやるよ。その代わり、どうなっても知らないぜ」
ケムケムは一同を後ろに連ねると(ちょうど電車ごっこのような感じ：笑)、瞬時にその場からタイムワープした。
シューーーーーーーーン！！
こうして彼らは時間を越え、未知なる過去の世界へと空前絶後、前代未聞の旅に出たのである。
※ ※ ※ ※
ルイが目を覚ましたのは、豪華な造りの大きな部屋のベッドの中だった。
室内に置かれている家具は皆、高級品ばかり(勿論ルイの寝ているベッドも)。一流の画家や彫刻家の手によるものと思われる絵画や像も飾られている。
「気が付きまして？」
誰かが声を掛けてきた。ルイがそちらを見るとベッドの傍らには、ルイと同じぐらいの年恰好の栗色の髪をした美少女が椅子に腰掛けていた。薔薇の髪飾りに豪華なピンク色のドレス、まさにおとぎ話に出て来る姫君そのものである。
「あなたは･･･？」
「私はローズ･ダイヤ。この国の王女です」
「王女様･･･！？それじゃあ、私は本当に中世の王国に来ちゃったのね！！」
動揺しているルイを見てダイヤ姫は不思議そうな顔をしたが、同時にルイに対する好奇心も湧いてきたようである。
「あなたは何処から来たの？お名前は？」
「ルイ。五月ルイって言います。実は、私･･･」
ルイはダイヤ姫に自分の素性――自分は数百年先の未来から来た遠い東の国(日本)に住む者で、妖精のお節介に寄りこの時代のこの国に飛ばされてきた事を話した。
一方こちらでは、ケムゾウ達を連れたケムケムが中世の時代に到着していた。
「うひゃー、きれいな所だねえ♪昔の時代だけあって、空気が美味いぜ！クンクン！！」
「パスポートもビザも無しで海外へ来れるなんて、オレ達ゃ良い友達を持ったぜ♪」
緑の森に囲まれた美しい景色を見て、ケムシと明菜は大はしゃぎである。明菜に至ってはケムケムを褒めるような事まで言っている。
「くぉら、お前ら･･･オレ達は海外旅行に来たんじゃ無いぞ･･･(汗)」
「あ、わりぃな兄貴。つい大自然に見惚れて･･･(笑)。やい、妖怪！！
ルイ姉ちゃんは確かにここにいるんだな！？」
「嘘だったら、ただじゃおかねえぞ！！」
ケムゾウにたしなめられ我に返った２人の能天気小僧は、コワ〜イ形相でケムケムに凄んだ。
丸っきりヤクザである･･･(汗)。
「ちょっと待て。今、あの子の思考を探ってみる」
ケムケムは脅しに動じる気配も無く、精神を集中させてルイの居所を探った(このケムケムにはテレパシー能力がある)。
「･･････ふっふーん♪いたいた♪例の女の子は、この国の王様の城でお姫様と楽しそうに話してるよ。飛ばす際に言葉の魔法を掛けて、どこの国の誰とでも言葉が通じるようにしたからな」
「オレ達にも掛けてるのか？」
「モチロン」
「そうか、良かった･･･じゃあ、早速城の中へオレ達を連れて瞬間移動しろ」
「ちょっと待ってよ、兄貴。せっかくお姫様に会うのに手土産も無しなんてのも何だから、ここは１つ花でも摘んで持って行く事にしよう」
「けっ･･･我が弟ながらキザな奴･･･」
と言いつつも、苦笑いしながらケムシに同行するケムゾウと他３名であった。一同はその場を歩き出したが、その時――
ズボッ！！
「うわあああああっっ！！」
突如地面が陥没し、５人はその中へ落ちて行った･･･。
※ ※ ※ ※
「まあ、素敵･･･！」
その室内に飾ってあるキラキラしたガラス細工を見て、ルイは感激の声を上げた。
ダイヤ姫の住んでいる城には、世界各国から集めた品々を飾ってある部屋が数多くあり、ルイは今までに人形ルーム、工芸品ルーム、アクセサリールーム、オルゴールルーム等へ案内されていた。
「気に入って頂けて光栄ですわ♪」
ダイヤ姫はルイが喜ぶのを見て、楽しそうにニコニコしていた。やはり彼女も12歳の少女。自分と同年輩のルイに親近感を覚えるようである。
「こんなに素敵な物をいくつも見せて頂けて嬉しいです。私、自分の事を話して信じて頂けるか心配でした。でもダイヤ姫様は、私が未来から来たという事を信じて下さるんですね」
「当然ですわ。あなたが真実を語っているという事は、あなたの目を見れば分ります」
純真無垢なダイヤ姫は、ルイの内面を見通しているようである。ルイはダイヤ姫が『王女』という手の届かない存在では無く、身近な友達として心を開けるような気がした。
「ねぇ･･･ダイヤ姫様･･･」
「ダイヤ姫様なんて余所余所しいわ。普通に『ダイヤ』って呼んで」
「うん･･･じゃあ･･･ダイヤちゃん。ダイヤちゃんにはご兄弟はいらっしゃらないの？」
「うぅん･･･お城にいないだけ･･･みんな結婚してお城を出て行っちゃったわ･･･だからお城にいるのは私だけ･･･」
聞くところによると、ダイヤ姫は８人姉妹の一番末の娘。上の７人の姉達は、皆それぞれの嫁ぎ先で暮らしているらしい。
「そう･･･」
寂しそうなダイヤ姫を見て、ルイは悪い事を質問したと思った。だが、ダイヤ姫は気を取り直して今度はルイに質問した。
「ルイさんのご両親はどんな方々ですの？」
「パパは優しいけどママは厳しいわ。いつもいう事は『勉強しなさい』ばかり･･･」
「へぇ･･･」
ルイの母は日仏混血。大手会社の社員であるルイの父とは仕事先で知り合った。父はルイの進路について余りうるさく言わないが、母はルイをどこに出しても恥かしくない一流のレディーにしようと、かなり教育熱心であった。
「･･･でも、ルイさんの為を思ってそう仰って下さるご両親って素敵だと思いますわ」
「そうね･･･」
ルイは思った。自分がいなくなってしまったら父も母もどんなに心配するか･･･日頃口うるさくても、ルイにとってはたった一人の母である。それに自分だって住み慣れた町にいる方が一番良い･･･。
「私も何とかして元の世界に戻りたいわ」
「では先程の場所に戻りましょう」
「え？」
「あなたが元の世界に戻れる手掛かりがあるかもしれませんわ。それを見つけに行きましょう」
「ダイヤちゃん、私の為に協力してくれるの？」
「当然ですわ。私達は友達でしょ？」
「ありがとう、ダイヤちゃん」
ルイはダイヤ姫に、心の底から感謝した。
場面変わって、こちらはケムゾウ達。一同は、どうやら落とし穴に落ちたらしい。
「痛たたたた･･･誰だ！？こんな所に穴なんか掘りやがったのは！？」
穴の中で痛そうに尻をさする彼らを、１人のムサ苦しい容貌の大男が覗き込んでいた。服装から見て猟師と思われる。
「おおーっ！大猟じゃ！５匹も掛かっとるわい！！」
「匹とは何だ！人間だぞ！！」
人を人とも思わぬド失礼な言葉に、童馬はいきり立って反論した。
「ナニ言うちょる！そんなヘンチクリンな人間がいるか！！」
猟師はケムケムを指して言った。確かに妖精である彼の容姿は人間には見えない…(汗)。
「おい、妖怪･･･お前のせいで、とんでも無い事になっちまったぞ･･･」
「オレは妖精だ、いちいち人のせいにするなって」
「おめえは人か？」
「ツッコミは無しだぜ(汗)」
「ふっふっふっふ、みんな丸々として美味そうじゃのう･･･早速、ここで焼いて食うとするか」
猟師はケムゾウ達を見ながら舌なめずりしている。エライ事である･･･(汗)。
「おい、オッサン！オレ達は、ある女の子を探しに未来から来たんだ！」
「何？ミライ？」
「事情が分ったら、オレ達をここから解放してくれ！」
「･･････むーふふふふ♪オラ、ますますお前らを食ってみたくなったぞ♪」
「だあああああっっ！！言ってる意味分ってるのかよ！オッサン！！」
「こんなドアホに付き合っちゃおれん！みんな、オレに捕まれ！」
ケムケムは皆を集めると、穴の中から一瞬に瞬間移動した。
シュン！！
「どひゃっっ！！消えた！？」
余りの事に驚き呆れる、マヌケ面の猟師であった。
※ ※ ※ ※
一同は、先程の場所からやや離れた森の中へ移動していた。
「何だ、まだ森の中か。一気に城までワープしてくれりゃ良いのに」
「オレの力じゃ、ここまでが精一杯だ。でも、城へ近付いた事だけは確かだぜ」
「まあ、良いや。では、ここで姫君に献上する花をば･･･♪」
と、ケムシが呑気に花を摘もうとすると、木々の陰から数人の殺伐とした面相の男達が現れた。
「小僧ども、随分と変わった･･･いや、良い服を着ているな。命が惜しけりゃ身包み脱いで置いて行け」
「ヤだよ、そんな事したらハダカになるじゃないか。オレ達、先を急ぐんだ。通してくれ」
「どっこい通さぬ。ワシらにも山賊としてのメンツがある。よこさぬなら力尽くで奪うまでだ」
「おい、ケムゾウ･･･どうする？何だか『走れメロ★』的展開になってきたぞ･･･」
「やんぬるかな･･･なんて言ってる場合じゃねえ！やい、妖怪！！さっきの落とし穴といい、お前わざとオレ達を危ない目に合わせてるんじゃねえだろうな！？」
度重なる災難に、ケムゾウはケムケムに当り散らした。そうすると、ケムケムもいい加減にキレてきた。
「バカ言ってんじゃねえ！せっかくオレが苦労して骨を折ってやってるのにケチばかり付けやがって！そんなら、もうオレが手を貸すのはここまでだ！後はお前らで何とかしろ！」
「そーんなー！！」
「野郎ども！掛かれー！！」
山賊達がケムゾウ達に襲い掛かってきた。
「えーい！こうなりゃヤケだ！掛かって来い、悪党ども！！」
こうしてA-World恒例の乱闘シーンが始まった･･･。
「何でしょう？森の奥で誰かが騒ぐ声が･･･」
再びルイと共に森に来たダイヤ姫が森の奥で妙な声を聞き付けたので、ルイも耳を澄ますと確かに聞き覚えのある声が･･･。
「ケムマキくん･･･ケムマキくん達が私を探しに来たんだわ！」
「この森の奥にルイさんの友達がいるのね？では、行きましょう！」
ダイヤ姫とルイは森の中に走り込んで行った。
「姫様ーっ！！闇雲に森の中を走ると危険ですよーっ！！」
同行して来た家来も姫達を追ったが、体の小さな２人と違い森の木々を潜り抜けるのに一苦労である。お陰で姫達との距離にかなりの差ができてしまった。
『行ってはいけない――』
「え？」
突然聞こえた木々の精霊の声に、ルイは思わず立ち止まった。
『行ってはいけない、森の奥には大勢の悪者達がいるよ――』
何も知らないダイヤ姫は、１人森の奥へと走っていた。ルイは後を追い、そして叫んだ。
「ダイヤちゃーん！！１人で行ってはダメよー！！森の中は危険なのー！！ダイヤちゃーん･･･！！」
※ ※ ※ ※
森の中ではケムゾウ達が山賊ども相手に激しいドンパチを繰り広げていた。
甲賀忍法を見に付けているケムマキケムゾウ・ケムシ兄弟。体操選手を目指しスポーツセンターでトレーニングに励んでいる芥川童馬。剣道の心得のある父親に日々鍛えられている国生明菜。
例え子供とはいえ、そんな彼らを相手にしては山賊達もタジタジである。ケムケムも魔法も使わずに余裕で応戦していた。
「えーい！情けない奴らめ！たかがガキ５人に何を梃子摺っておるのだ！！」
不甲斐無い子分達の戦い振りに、山賊の頭領が腕組みして唸っていると、木々の陰からダイヤ姫が現れた。余りに殺伐とした光景にダイヤ姫が息を飲んでいるところへ、ルイもようやく追い付いて来た。２人を見付けた山賊の頭領は嬉しそうな声を上げた。
「おおーっっ！！これはまた高く売れそうな娘が２人も現れたわい！！ガキ共を片付けて身包み剥いでから、お前達も連れて行くとするかのう、ひっひっひっひ･･･！！」
「キャーーーーッ！！」
悲鳴を聞いたケムゾウがそちらを振り向くと、ルイが見知らぬお嬢様風の少女と共に山賊の頭領に襲われそうになっていた。無防備な少女達に手出ししようとする悪党オヤジにメロ･･･いや、
ケムゾウは激怒した。
「させるかーーーーっっ！！」
バキッ！！
山賊の頭領の顔面に、ケムゾウの怒りのジャンピング・キックが炸裂した――
「はあ･･･はあ･･･ひ、姫様･･･やっと見つけましたよ･･････って、やややっっ！？こっ、これは！？」
木々の奥からやっと追い付いて来たお城の家来、地面に倒れている山賊達を見て目を丸くした。
ダイヤ姫は家来に説明した。
「紹介しますわ、この方々はルイさんのお友達です。彼らは私とルイさんを守って下さったのよ」
「まあ元々は、自分の身を守る為にこの連中と戦ってたんだけどね･･･へへへ」
美しい姫君に命の恩人のように言われ、ケムゾウ達は大いに照れた。
「はい、お姫様。これはボクの挨拶代わりです」
「まあ、きれい。どうもありがとう」
「けっ！キザな野郎だぜ！」
「くれぐれも、毛虫は入れないよーにな！」
森で摘んだ花をダイヤ姫に贈るケムシを、ケムゾウ達は冷やかした。
「では皆さん。これから歓迎の宴を催しますので、お城へご招待しますわ」
「え？宴って事は、お城でパーティーするんだね？」
「バンザーイ！！」
「でも、それじゃあ帰りが遅くなっちゃうわ･･･」
困った顔で呟くルイに、ケムケムは言った。
「大丈夫。オレがお宅らがここに来た日の夕方ぐらいに戻してやるから、安心してパーティーを楽しみなよ」
「本当？ありがとう」
「じゃあ、みんな！お城で楽しませてもらおうぜ！！」
「おおーーーー！！」
※ ※ ※ ※
ケムケムは、のびている山賊達共々ケムゾウ達をダイヤ姫の城の中へ瞬間移動した。
山賊どもはその場で城内の家来達に取り押さえられて投獄され、ダイヤ姫の父である国王はケムゾウ達を大いに褒め称えた。
こうして、世を騒がす山賊集団を一掃しダイヤ姫を守った異国の英雄達を歓迎する宴が城内で大々的に催された。
ルイはドレスルームに案内され、室内に集められた世界各国のドレスから好きなものを選び、ドレスアップしてケムゾウ達の前に現れた。
「ひょーっ！素敵だぜ、ルイちゃん！」
「念願が叶ったね！まるで、本物のお姫様みたいだ！」
ドレスを着たルイの美しさには目を見張るものがあった。それは彼女の外観は勿論の事、内面からも滲み出ている彼女の心の美しさのせいであろう。ルイは照れながら皆に礼を言った。
「ありがとう･･･」
「よろしければ、皆さんにも宴用の衣装を用意致しますわ」
「あ･･･良い。オレ達は遠慮しとく･･･(汗)」
「オレ達は王子様のガラじゃ無いから･･･(苦笑)」
↑まさに、その通りだと思う･･･(笑)。
ダイヤ姫は６人を大広間に案内した。広間の中央には大きな食卓が置かれ、卓上には城内のシェフが腕によりを掛けて作った超豪華料理がズラリと並んでいた。
「うひゃーっっ！！スゴイご馳走だ！！」
「これ全部食べても良いの！？」
「･･･って、お前全部食えるのか？(汗)」
大広間では、催し物として色取り取りの衣装をまとった踊り子達の舞や色々な芸が披露された。
「お姉さーん♪一緒に踊らない？」
「こら、ケムシ！(まったく、ガキのくせに手の早い奴っちゃ･･･：汗)」
男５人がはしゃいでいる傍ら、ダイヤ姫とルイはテラスで夜空を見ながら語り合っていた。
「ダイヤちゃん。あなたのご姉妹は、みんな嫁がれたって言ってたわよね」
「ええ」
「ダイヤちゃんは、結婚なさらないの？」
「うん･･･好みの人が見つかるまで･･･。お見合いはいっぱいしてるんだけど、全部断っちゃったわ･･･」
「まあ･･･！そうなの･･･」
「ルイさんは？」
「え？」
「ルイさんはケムさんとは 結婚なさらないの？」
唐突なダイヤ姫の質問に、ルイは驚き戸惑った。
「わっ･･･私は、そんなっ･･･！！私の世界･･･私の国では男の人は18歳、女の人は16歳にならないと結婚できないの」
「へぇ･･･」
「そ、それに、私とケムマキくんは、そんな関係じゃ無いのよ。彼はただ私の持つ不思議な力を理解してくれた最初の友達なの」
「不思議な力？」
「私は生まれつき、あらゆる霊を見通す力があるの。ほら･･･昼間、森の中であなたに危ないって呼び止めたでしょ。あれは森の木々の精霊達が、私に危険を教えてくれたからなの」
「まあ、凄い･･･！ルイさんには、そんな優れた能力がお有りなの？」
「優れてるなんて･･･私、他の人と違う力を持つ為に今までどんなに嫌な思いをしてきたか･･･」
ルイは他人に触れられたくない事を話してしまい、悲しそうに俯いてしまった。
そんなルイを、ダイヤ姫は力付けるように言った。
「でも、それはルイさんだけの持つ特別な才能というだけの事でしょう？この世には無意味に生み出されるものはありませんわ。ルイさんの力も、きっとこの世にあるべき意味を持っているはずです」
「ケムマキくんも同じような事を言ってたわ･･･」
「ですから、ルイさんも持って生まれた力を世の為に役立てるべきだと思います。木々の精霊は、あなたに味方してくれたんでしょ？あなたが心正しくある限り、すべての精霊があなたやあなたのお友達を助けてくれる筈ですわ」
「ダイヤちゃんも私の力の事を受け入れてくれるのね」
「ええ。世の中には無理解な人達ばかりじゃありませんわ。どうぞご自分の存在に自信を持って下さいな」
「ありがとう、ダイヤちゃん」
ダイヤ姫とルイは固い友情の握手を交わした。
･･･と、その良い雰囲気をぶち壊すかのように現れたのは、赤ら顔の５人組。どうも酔っているらしい(汗)。
「ヒック･･･！よー、お２人さん。こんな所で何話してるんだい？」
「キミ達も、一杯どうだい？」
「まあ！！あなた達ったら、未成年なのにお酒なんて･･･！！」
「え？どうかしましたの？」
「ええ、私達の世界では、20歳にならないとお酒を飲んではいけないの」
「でも、時としてオレ達のような例外もいる♪」
「もう一回、飲み直して来ようぜ！」
「･･･って、ちょっと！･･･もぉ〜〜〜っ！！ホントに男の子ったら！！」
ルイは広間に帰って行く５人を見ながら、嘆かわしそうに１人思った。
『これじゃあ、日本の将来が思いやられるわ･･･』
※ ※ ※ ※
帰り際、ダイヤ姫は助けてもらったお礼という事で６人に、世界各国の薔薇を集めてある薔薇ルームの中の100本の薔薇を寄贈した(ケムゾウとケムシは兄弟で32本、他の４人は17本づつもらった)。
男５人の胸には、国王から授与された勲章も胸に光っていた(まさに気分はスター・ウォー★：笑)。
「では、ルイさんには私から･･･」
と、ダイヤ姫は髪に付けている薔薇の髪飾りを外し、ルイに渡した。
「まあ、こんな高価な物を･･･」
「良いの。私のはまだ、たくさんあるから。友情の証として受け取ってちょうだい」
「それじゃあ、私も･･･」
ルイも自分の髪から黒いリボンの髪飾りを外し、ダイヤ姫に渡した。それぞれ取り替え合った髪飾りを付けた２人を見て、男衆がはやし立てた。
「よーっ！２人共、良く似合うぜ！！」
「ありがとう、みんな･･･」
「お姫さん。またこの連中に会いたくなったら、こいつを吹いてオレを呼びな。いつでもアンタのところに連れて来てやるからな」
ケムケムはそう言うと、ダイヤ姫に小さなホイッスルを渡した。
「ルイさん、皆さん、さようなら。どんなに離れていても、私達はずっと親友同士よ」
「さようなら、ダイヤちゃん」
それだけ言い交わすと、一同はケムケムの時間移動に寄り姿を消した。
「私、今日は一度に友達が６人もできましたわ」
「ダイヤ姫。姫様は彼らが羨ましいのですか？」
「ええ、とても･･･私もこのお城から広い世界に出て、あの人達のような自由な生き方がしてみたいですわ」
「その願いは、いつかきっと叶いますよ」
６人が消えた空間を見つめながら、またいつの日か彼らに会いたいと願うダイヤ姫であった。
(完)
