『ある晴れた日に…』

空の晴れ渡るある日の事、下校途中のケムマキケムゾウは妙なものを見付けた。
「ん!?」
『もの』と言っても、それは物では無く人間、それも小学生ぐらいの少女である……でも、こちらの方がケムゾウより少し上であろうか?



その少女が町外れの空き地の木の枝の上で、木の幹に付いた何かを取ろうとしていたのである。その何かを取った瞬間、少女は枝から足を滑らせた。
「危ない!!」
ケムゾウは慌てて走り寄り、落ちて来る少女を抱きかかえたが、勢い余って自分も転んでしまった。
「いたたたたた……大丈夫か?」
「あ、ありがとう……」

「それよりキミ、何だってあんなところに登ったのさ」
ケムゾウが頭上の木の枝を指して言うと、少女は木の幹から外した物を見せた。少女の手の中のそれは、何かの紋章のようであった。
「これのせいよ」
少女はそう言うと、次に木の洞に向かって話し掛けた。
「さあ、出て来なさい。封印は外したから、もう外に出られるわよ」
その途端、木の洞の中から一筋の光が飛び出し、少女に礼を言うかのように空を旋回していた。



「さようならー。もう闇の者にちょっかい出しちゃダメよ」
少女が手を振ると、光は天に向かって飛び去って行った。気のせいか「さようなら」と言う声まで聞こえたような……。
「……今のは一体……」
ケムゾウが唖然として尋ねると、少女は語った。
「あの光妖精の子は、闇妖精にイタズラしようとして木の中に閉じ込められてしまったらしいの。私は偶然、植物の精霊が騒いでいるのを聞き付けたから、闇妖精の封印を外してあげたという訳」



「すると、キミにはあらゆる霊を見通す力がある訳だね?」
「ええ。私には物心付いた時からこの力があるの。人の霊、動物の霊、この世の万物の精霊まで。見通すだけじゃ無く声を聞く事もできるわ」
「すげぇ……」
「すごくなんか無いわ!私この変な力のせいで、今だに友達もできないのよ」




彼女―五月ルイは、この町内の小学6年生。学業成績は良いが周囲から変わり者に見られていた。以前、墓場で天に昇れず迷っている子供の霊を見つけた時―
「大丈夫よ。天国には、きっとあなたの友達になってくれる人がたくさんいるわ。だから安心して成仏しなさい」
天に昇りながら別れを告げる子供に、ルイも手を振って別れを告げた。
「さようならー。元気でねー」
するとそこを運悪く、級友の意地悪な女子生徒達に見られてしまった。



「やだあ。あの人、お墓の前で何やってんの?」
「ちょっと変わってるでしょ?」
「クスクス……(冷笑)」

「私みたいな変わり者、この世から消えちゃえば良いんだわ」
「馬鹿を言っちゃあ、いけないよ。この世には何の意味も持たずに生まれてくる者なんて、いやしないんだからね。



それに変わってるのはキミだけじゃ無い。オレや……オレの兄弟、仲間、それに少ーし前に知り合った女の子―キミと同じ年なんだが―もちょっと変わった部類なんだ」
「ホント……?」
「ああ。オレの仲間は色々いるが、特にオレの普通と掛け離れた点は……実は、オレ忍者なんだ」
「忍者?それって、あの赤い仮面を付けた……」
「ずっ……(汗)。それは赤影!」
「それじゃあ、科学忍法・竜巻ファイターの……」
「それはガッチャマン!」
「確か、上司がハムスターなのよね……?」
「それはハリケンジャー!!オレは甲賀流の忍者なの!!よーく見てなよ!」
そう言うなりケムゾウは、素早い動きでルイの周りを飛び回った。
「す、すごい……」
「おーい。オレはここだよー」
気が付くと、ケムゾウはさっきルイが登っていた木の枝の上にいた……が、その時!!
ボキッ!!
ケムゾウの乗っていた枝がいきなり折れた。それも無理にへし折れたのでは無く、朽ちた枝が自然に外れるように……。
「危ない!!」
ルイはケムゾウを抱きかかえたが、勢い余って自分も転んでしまった(さっきと逆である:汗)
「だ、大丈夫!?」
「いたたたた。あ、ありがとう。しかし、一体どうしたんだ?さっき、キミが乗ってた時は何とも無かったのに……」
「木の精霊が言ってるわ。あなた今日の体育の時間、花壇に入ったボールを取ろうとして花を1本踏み潰したでしょう」
「当たってる……」
「大地の精霊が教えてくれたから花に代わってお仕置きしたんですって。気を付けた方が良いわよ。何か災難にあった時って、案外精霊を怒らせるような事をしたのかもしれなくってよ」
「言ってくれるなあ……そんなの一々気にしてたら、終いには空気中のバクテリアにまで気を使わなくちゃならなくなるじゃないか。この世には業に寄らない災難もあるんだから、災難ぐらい自分で受け止めてやるぜ!」
「あなたには、その方が似合ってるかもね……」

「今日は、どうもありがとう。お陰で生きていく事に希望が湧いてきたわ」
「意地悪言う奴の事なんか気にするなよ。キミには迷える霊達に救いを与える立派な力があるんだから」



「さようなら。今度会う時は、お友達も紹介してね」
「うん。そうするよ」

ケムゾウとルイは、別れを告げてその場を後にした。

これ全て、ある晴れた日の出来事であった……。